「しれっと逃げる」は弱さじゃない。ヨシダナギ『しれっと逃げ出すための本。』をひとり出版社の視点で読む

 
こんにちは!339PLANNING広報担当ライターの、りこです。
今日は、こんちゃんのポッドキャスト『こんちゃんの本棚からひとつかみ』第4回のご紹介です。
今回取り上げたのは、ヨシダナギさんの『しれっと逃げ出すための本。』。
 
著者のヨシダナギさんは1986年生まれのフォトグラファー。独学で写真を学び、アフリカやアマゾンの少数民族の撮影を行っています。被写体と同じ格好になって心を開くという体当たりの撮影スタイルと、鮮やかな色彩感覚がテレビ番組などでも話題になりました。
この本は、いじめ、不登校、引きこもりを経験した著者が、集団生活から「逃げてきた」自身の半生をもとに綴った「生きづらい世の中を生き抜くためのエッセイ」です。
 

「サプール」の色彩に心が動いた理由

こんちゃんがヨシダナギさんを知ったのは、テレビではなく「サプール」の写真がきっかけだったそうです。
サプールとは、コンゴ共和国を中心に、自分たちの収入以上に服を買い、ファッションを全力で楽しみ、堂々と街を歩く人たち。ヨシダナギさんが撮影したその色彩を見たとき、「こういう人がいるんだ」と発見したような気持ちになった、と話していました。
被写体と同じ格好になって距離を縮めるという撮影スタイルも含めて、「この人の写真にはなぜ力があるのか」を考えさせられるエピソードでした。
 

「逃げることは悪いことじゃない」が押し付けにならない理由

この本の核にあるのは、「逃げることは悪いことじゃない」というメッセージです。
ただ、こんちゃんが魅力だと感じているのは、そのメッセージの伝え方でした。「逃げていいんだよ」と正面から説得してくるのではなく、ヨシダナギさん自身の体験を通して、読んでいる側がいつの間にか「そうかもしれないな」と思える書き方になっている。
押し付けがましくないからこそ、すっと入ってくる。これは、コンテンツの作り手として学ぶところが大きいポイントだと思います。伝えたいことがあるときほど、正面突破ではなく「体験で渡す」という方法が効く。こんちゃんが「この本の魅力はそこにある」と話していた理由が、よくわかります。
 

夢がなくても動き出せる。撮られる側から撮る側へ

ヨシダナギさんはもともとモデルなど「撮られる側」の仕事をしていた方です。そこからフォトグラファーへ転身するわけですが、そのきっかけが思いのほか軽やかだった、という話がラジオの中で出てきます。
「ある日急にフォトグラファーになりたいと思った」。
こんちゃんはこのエピソードに触れながら、「それぐらい気軽に始めてもいいんだな」と話していました。ネットがある時代に生きていることで、SNSでバズろうとかではなくても、自分がやりたいと思ったことからすぐに動ける。
フリーランスや小さな事業を始めたいと考えている方にとっては、「夢や明確なビジョンがなければ動けない」という思い込みをふっと外してくれる視点ではないでしょうか。
 

「やりたくないことを消していく」という消去法の力

エピソードの中でこんちゃんが「これは本当に素晴らしい」と話していたのは「やりたいことがないなら、やりたくないことを消去法で消していく」という考え方です。
こんちゃん自身、以前キャリア相談の仕事をしていた経験があり、やりたいことはその時々で変わるし、ずっと変わらないものがある方がむしろレアだ、という実感を持っています。それよりも、「これはやりたくないな」の方が明確に描きやすい場面がある。だからそっちを大事にした方がいいんじゃないか、と。
実はこれ、339PLANNINGの出版コンサルの現場でも近い話があるそうです。「何を書きたいか」だけを考え続けると煮詰まってしまう著者さんに対して、まずは「書きたくないこと」「自分があえて書かなくていいこと」を決めていく。そうやって削ぎ落としていくことで、本当に書きたいことの輪郭が見えてくる、というアプローチをとっています。
キャリアでも、出版でも、「やりたいことを見つけなきゃ」と力む前に、「やりたくないことを消していく」方が前に進めることがある。この本はそのことを、とても軽やかに教えてくれます。
 

ネガティブはリスクヘッジにもなる

この本の中ではヨシダナギさん自身が「ネガティブな人間」であることが繰り返し描かれています。
こんちゃんはそこに触れながら、ネガティブであること自体に良い悪いはなく、捉え方の問題だと話していました。リスクヘッジができる。自分が危険なところに行かないように済む。そういう側面もある。
この本を読んで、自分が漠然と感じていたことを肯定されたような気持ちになった、と話していたのが印象的でした。ネガティブを無理にポジティブへ変換しなくていい、という考え方は、フリーランスとして事業判断をする場面でも、実は大事な感覚かもしれません。
 

「しれっと」はフリーランスにとって最も実用的な身のこなし

タイトルにもなっている「しれっと」という言葉について、こんちゃんはラジオの中でじっくり話しています。
「ちゃんと辞めます」「ちゃんと始めます」は、肩に力が入る。でも人間はそんなにきれいに割り切れないし、上手くいかないこともある。それを皆どこかでわかっているのに、「ちゃんとしなきゃ」と思ってしまう。
こんちゃん自身も事業をやる中でそう感じることがあるけれど、実はしれっと始めたり、しれっと相談したり、しれっと方向を変えたりする方が、物事は案外円滑に回る。煮詰まっているときほど、しれっと「ちょっとこれキツイんですよね」と誰かに言ってみる。
これはフリーランスや小さなチームで仕事をしている人にとって、とても実用的な感覚だと思います。一人で全部を抱え込むのではなく、しれっと声を出してみること。大げさな相談ではなく、「しれっと」な一言が状況を動かすきっかけになることがある。
独立や転職を考えている方はもちろん、今の仕事にちょっとモヤモヤしている方にも、「しれっと方向転換する」きっかけが詰まった一冊です。
 

リスペクトより「一緒に面白がる」という向き合い方

ヨシダナギさんがアフリカの少数民族と接するとき、リスペクトというよりも「一緒に面白がる」「自分を面白がってもらう」というスタンスで向き合っていたそうです。
こんちゃんはそこに「気持ちを軽くして物事に臨むことの大切さ」を感じたと話していました。何かやらなきゃ、何か見つけなきゃ、と思い詰めるよりも、自分が辛くない形をいかに見つけるか。
339PLANNINGが大切にしている《おもしろがるきっかけを作る》というメッセージとも、どこかで通じている視点だと感じました。
Hinobaがお届けするドリップバッグコーヒーも、気持ちを少しゆるめて自分のペースに戻るための時間のために作られました。しれっとコーヒーを淹れて、しれっとこの本を開いてみる。そのくらいの気軽さで、十分だと思います。
 
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▼紹介した本
『しれっと逃げ出すための本。』ヨシダナギ著/PHP研究所/2021年9月3日発売/144ページ
 
 
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